放射線治療

放射線治療

放射線とがん

 放射線は細胞のDNAを切断することで、細胞を殺します。がん細胞は正常細胞よりも放射線の影響を受けやすく、量や範囲を的確に設定すれば、正常な細胞を傷つけずにがん細胞だけを殺すことが可能です。一般に鼻・口・のどなどに発生する扁平上皮がんには放射線が効きやすく、胃や腸に発生する腺がんは放射線が効きにくいとされていますが、放射線感受性には個人差も大きく、一概にはいえません。乳がんのほとんどは腺がんですが、腺がんの中ではもっとも放射線が効くがんです。

扁平上皮がんと腺がん

 がんは発生する場所の細胞組織によって、
①皮膚や粘膜に発生する扁平上皮がん
②内臓の分泌物を出す上皮に発生する腺がん
③原発巣がわからない未分化がん
の3つに分類されます(厳密にいうと、扁平上皮がんと腺がんの間に移行上皮がんがある)これを「がんの組織型分類」といいます。もっともあくせいなのが未分化がんで、肺にはこの3つすべてがあります。

乳がん治療で放射線が使われるケース

 乳がん治療で放射線が使われるのは、おもに次の場合です。
①乳房温存手術の後
②乳房切除術の後
③手術不能な進行乳がんの術前治療
④再発・転移性乳がん治療

①乳房温存手術の後

 まず①については、乳房温存療法とは、温存手術+放射線治療のことで、これはセットと考えてください。というのは、手術後、放射線照射したグループとしないグループの乳房内再発率を比較したところ、照射しなかったほうは35%、照射したほうは10%でした。放射線照射が乳房内再発率を大幅に下げていることがわかったのです。この数字はアメリカの試験結果ですが、同様にイギリスでは26%と5%、カナダでは26%と6%というようにいずれも照射したほうが大幅に再発率が低いのです。これは放射線照射をしないと、たとえ断端陰性(切除した組織の切断面にがん細胞が見られない=がん細胞を残らず取りきれたと思われる場合)でも乳房内再発が26~35%の人で起こるということです。つまり、乳房温存手術はある程度がん細胞が残ることを前提にした手術であって、だからこそ放射線治療とセットで温存療法が完了するのです。こういう場合なら放射線照射は省いて温存手術だけでいい、という科学的な条件は報告されていません。

②乳房切除術の後

 ②乳房切除術後に放射線を照射するのも、①乳房温存手術の後と同じ理由です。乳房を全部切除しても20~30%の人に局所再発が起こるとされ、放射線照射によりそれを約3分の1に減らすことができるのです。その結果、生存率が約10%向上するという報告があります。日本では、温存手術よりも根治的な手術をしたという安心感のためか、①に比べ②で照射されることは少ないようです。しかし、リンパ節転移が4個以上、またはしこりが5cm以上、すなわち局所再発のハイリスクグループに入る人は、切除術後の胸壁および腋窩リンパ節に対する放射線治療を受ける必要があります。

③手術不能な進行乳がんの術前治療

 ③の、手術不能な進行乳がんに対する術前治療とは、術前化学療法が無効であったり、なんらかの理由で抗がん剤が使えない場合、放射線を照射してしこりを縮小させて手術に持ち込むことができます。

④再発・転移性乳がん治療

 ④の再発・転移性乳がんに対する放射線照射の目的は、症状の緩和です。たとえば骨に転移した場合、骨折したり痛みが出ることがあります。そこに放射線照射することで、骨折を予防したり、痛みを緩和することができます。また、脳転移の場合も、脳の内圧が高まるために頭痛、悪心、嘔吐などの症状が出ますが、がんに的を絞って放射線を照射する(この方法をガンマナイフといいます)ことで、がんが縮小すれば、これらの症状を緩和することができます。

放射線照射の方法

 放射線照射の方法には「リニアック」と「コバルト照射装置」の2種類があります。リニアックは電気仕掛けで照射します。一方コバルトは、放射性同位元素ですから、常に放射線を出しています。これを分厚い金属の箱に閉じ込め、必要なときに蓋を開けて開けて照射します。

治療の方法

 治療の方法は、まず手術や画像検査の結果から、どこにどれだけの量を照射するかを決めます。これは放射腺腫瘍医の仕事です。そして、患者さんの体に実際に印をつけ、必要な場所に十分な照射ができるように、また、不必要な部分には放射線が行かないようにします。

放射腺腫瘍医

 がん専門の放射線科医のことです。放射線療法は近年、粒子腺療法、三次元放射線療法、IMRT(強度変調放射線療法)などの新しい技術が開発され、めざましい進歩を遂げています。しかし、放射線腫瘍医の不足のために、こうした技術が現場で十分に生かされているとはいえない状況にあります。日本放射腺腫瘍学会の認定医は現在500人前後ときわめて少なく、育成、増員が求められています。

ある病院の一例

 ある病院で実際に行われている線量を数値で紹介すると、その病院では全乳房に48グレイ(グレイは放射線量の単位)、さらに局所に12グレイ追加照射するのが普通です。総線量が同じでも、1回の線量が多いと、後遺症が増える可能性があります。1回の治療に要する時間は約5分、痛くもかゆくもありません。

放射線治療で覚えておきたいポイント

 放射線治療は何か恐ろしいものというイメージがあるかもしれませんが、副作用は手術や化学療法に比べれば少なく、おもに放射線が照射された部分にしか出ません。しかも大部分は3~6ヵ月後には消えてしまう一時的なものです。

放射線治療の副作用

 放射線治療による副作用は、照射中や照射終了後に出る急性障害と、照射後数ヶ月から数年たって出る晩期障害の2つに分けることができます。

急性障害

 急性障害は、日焼けしたときのように皮膚が赤くなる「紅斑」、皮膚がカサカサしてかゆくなる「乾性落屑(かんせいらくせつ)」、逆にジュクジュクして水ぶくれができることもある「湿性落屑」などがあります。いずれも時間がたてば、軽快します。

晩期障害

 問題は晩期障害で、一度起こると治りにくいとされています。しかし、適切な照射計画を立てれば、重い晩期障害が残ることはまれです。おもな障害は、皮膚の萎縮、毛細血管が拡張して皮膚の表面に浮き出る、あるいは皮下組織や乳腺が硬化する、乳腺が縮むなどです。

その他の副作用

 これら治療部位に起こる副作用の他に、全身性の疲労感が出たり食欲不振になることもあります。しかし、全身性のものは、純粋に放射線治療の副作用というより、元祖のものの副作用である場合も多いと思われます。



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